アイヌアは、大いなる音楽を作った。

初めに、唯一なる神エル、エルフ語でイルーヴァタールの名で呼ばれる方が、
その思いの中よりアイヌアを創り給うた。
アイヌアは、イルーヴァタールの御前で大いなる音楽を作った。

          -『新訳シルマリルの物語』 J.R.Rトールキン著/田中明子訳(評論社)


『指輪物語』、つまり 『 The Lord of The Rings 』 を初めて手にとったのは、地元の図書館に通いつめていたころだった。

新設小学校の図書室には蔵書らしき蔵書はなく、入ってくる本を手当たり次第に読みつくしてしまった。
図書担当の先生が岩波の信奉者だったのか、とにかく岩波書店刊の図書室だった。
そのおかげで出会えたのが、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズで、これは長年の愛読書のひとつとなった。
岩波古典文学大系の、現代語訳バージョンも好きだった。わかりやすい『とりかえばや』『おちくぼ物語』は、源氏物語以前の私的な中世文化資料だった。
もちろん、ポプラ社の『少年探偵団』シリーズ、『シャーロック・ホームズ』シリーズ、そして『アルセーヌ・ルパン』シリーズはバイブルのようなものだった。

SFの原点は、大御所福島正実翻訳シリーズ。
ソ連SFの鬼才ベリャーエフ『生きている首』(創元推理文庫では『ドウエル教授の首』)をはじめ、SFと幻想文学とファンタジーの境界もなく、なおさら奇想天外な物語を探すのが楽しい時代。

公立図書館職員の、仲良くなったおじさんは私が手に取らない類の本をすすめてくれた。
司馬遼太郎『国盗りものがたり』  
E.G スピア『からすが池の魔女』
・・・・タイトルの魅力で読んで、そして感謝したものだった。
このおじさんがすすめてくれたのが、出版されたばかりの『指輪物語』だった。
こんなに長くて、こんなに緻密で、こんなにすごい物語があるなんて!

1978年、『指輪物語』は初めて映像化されることになる。
バクシ監督のアニメーション「ロード・オブ・ザ・リングス」だ。
さまざまな実験と斬新なアイデアは認められるけれども、続編は作られずに終わってしまったアニメーション映画だった。
バクシの試みのなかには、戦後アメリカがたどった文化と社会のうごきが見て取れるだろう。

50年代のビートニク、60年代のヒッピームーヴメントは、世界を二分する強大なイデオロギー=政治的な力に、アメリカの若者たちがおこした動きだった。
ころがりゆく現代に爪をたてて抵抗する彼らは社会の「歌舞伎者」という認識しか受けられなかったが、この二つの動きは現代に続くサブカルチャーの礎となる。
サブカルチャー、とは、日本近代文学史上の「第二文芸論」(詩歌は散文と比べて本当の文芸とはいえない、第二の文芸、副産物にすぎないという説)ともとれる言葉だが、カルチャーの域と枠を越えたものと受け止めても良いと思う。
そして、朝鮮戦争、ベトナム戦争と、挫折していくLove & Peace のアメリカに現れたのが、トールキンの物語だったのだ。
若者たちの挫折感を支えたのは、まったく新しい、けれど懐かしい、大いなる歴史と文化に裏付けられた確固たる世界だった。
ガンダルフを大統領に、というプラカードは有名だが、ガンダルフを大統領にするという考えには、とてつもなくアメリカ的な思考が垣間見えているのではないか?
この熱狂のなかで、バクシはアニメ化による映像化にとりかかり、78年の公開となったのだ。


Sticks 、とメモ書きがある 「The Lord of The Rings」 という音源があった。
高校時代の友人がバクシアニメのサントラ最後に入れてくれた、そのテープを我が家のマゾムから掘り出してようやく今聞いている。

私はSticks と聞き書きしたつもりだが、このグループのディスコグラフィーを探してもこの曲は出てこない。
もしかすると聞き違いなのかもしれない。
しかし、男声ヴォーカルのサビ部分などを聞くとデニス・デ・ヤングによく似ているような気がする。
歌詞はあまりのブロークンさでなかなか聞き取れないが、魔法の指輪の伝説、老いたるものも若者もみな、とかが聞き取れる。

SF作家のマイケル・ムアコックもバンドを結成し、やはりトールキンにインスパイアされた作品を出しているらしい。
yes のリック・ウェイクマンの円卓の騎士、指輪物語アルバムはあまりに有名だ。

Queen もはっきりとこれとはないけれど、歌詞を見るとインスパイアされているのでは?と思えるものがたくさんある。
78年から80年代にかけてプログレッシブなロックは、トールキンからSFへとそのイマジネーションの源流をたどれるだろう。

バクシアニメの音楽、さまざまなミュージシャンが作った中つ国の音楽。
そしてピーター・ジャクソン監督映画、ハワード・ショアの音楽。
ミドルアースと、その物語が感じられる音の数々。
音楽と物語の関係を、つたないながらみつめていこうと思う。
アイヌア自身も知らない、音楽のなかに。
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# by crann_berry | 2004-08-11 00:39 | LOTRの音楽